10年振りくらいに路面電車に乗った。
コトコトと揺れながら、よく晴れた冬の朝をのんびりと抜けていく路面電車は、いつかのクラスメイトの実家の添いや、かつての遊び場の前を通り過ぎながら、ひたむきなくらいにゆっくりと走る。
人の気持ちを揺さぶるのは、テレビのコマーシャルのような慌ただしいスピードではなくて、これぐらいのスピードがちょうどいいんだよ、と今にも運転手さんが得意気に話しかけてきそう。
途中、窓の外の風景が止まったようにも見えて、実際、ほろ苦く止まったりもしてる。目には見えないところで。
対したことのないことでも、かつては好きになれなかったことを好きになれるということは、いいことに思う。
好きになるためには時間がかかることもある。もちろん時間をかけても、それでもまだ好きかどうかわからなくて、不安が残っていたりすることもある。
そんなときはどうすればいい?
そんなふうなたわいもないことを、古びた窓の向こうから風景が僕に語りかけてきているようでいて、でも実は語りかけているのは自分のほうだったりする。